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研究テーマ

1. HIVの細胞内侵入機構の解明
​後天性免疫不全症候群(エイズ)を引き起こすヒト免疫不全ウイルス (HIV-1)は血液中に存在しているリンパ球に感染して、その細胞を破壊することにより免疫不全をおこします。我々は、HIV-1がどのようにしてリンパ球に取り付いて、細胞内に侵入し、細胞内でウイルスの複製を確立するのかについて研究を行っています。特にHIV-1は、CD4やCCR5ないしCXCR4と呼ばれるリンパ球表面の受容体分子と結合することにより細胞に吸着して、細胞内に侵入することが知られています。我々はHIV-1の細胞内侵入に関与するウイルス側タンパク質であるgp120と細胞側の受容体(コレセプター)にあたるCCR5やCXCR4などのケモカインレセプターに着目して研究を行っています。

現在このような初期過程のウイルス複製を阻害する薬剤としては、CCR5に結合して、細胞内侵入を阻害するマラビロク (maraviroc)が開発され、実際に臨床で使用されています。しかしながらウイルスはこのような薬剤に対しても耐性を獲得することがわかってきました。我々もマラビロク耐性HIV-1をin vitroの培養系で分離することに成功し、ウイルス側はマラビロク耐性を獲得するために、ウイルス側のgp120の主にV3と呼ばれる可変領域に変異を挿入することにより、マラビロクが結合したCCR5を認識して細胞内に侵入できるように進化していることを明らかにしました。

さらにHIV-1は感染初期にはCCR5を認識して細胞内に侵入するR5ウイルスが主流ですが、感染後期で病気が進行するとともにCXCR4を使用するR5X4ウイルスやX4ウイルスへとスイッチしていきます。このスイッチに関与するウイルス側領域として、やはりV3領域が関与していることを我々は明らかにしてきました。しかしなぜウイルスがCXCR4を使用するX4へスイッチするのか、なぜエイズという病態に関与しているかについては明らかではありません。

 

2. HTLV-1のウイルス複製に関わるHTLV-1 Envの役割

HTLV-1は主に九州を中心として感染が拡がっているウイルスで、同じくレトロウイルス科に属しています。このウイルスは母乳などにより、感染が母親から子供に伝搬するウイルスで、50年近い年月を経て成人T細胞白血病 (ATL) やHAM/TSPと呼ばれる神経疾患をおこします。しかしながらこのウイルス複製の詳細についてはあまり十分な研究がなされていませんでした。その理由としは、ウイルスは非常に感染性が低く、細胞−細胞間伝搬でのみ感染が成立するためと考えられているためです。感染細胞が存在しないウイルス粒子だけでは感染の効率が非常に低いため、ウイルスの増殖実験が難しかったのです。我々はHIV-1の実験系で培ってきた技術を応用して、HIV-1の感染系にHTLV-1のウイルス侵入に関与するEnvタンパク質を発現させることにより、HTLV-1 Envを有するHIV-1粒子を産生させることに成功し、感染性の高いHIV-1粒子を利用して、HTLV-1 Envの細胞内侵入機構を解析する技術を確立しました。

この技術を使用して、HTLV-1感染細胞でEnvタンパク質がなぜ受容体分子であるGLUT1を結合することなく、感染性を保ったままウイルス粒子に取り込まれるかについて明らかにしました。

 

3. HERVの発現の制御機構の解明

​人類には何度となく、その進化の過程でレトロウイルスが感染し、この一部は生殖細胞にも刻み込まれることで、親から子供へとウイルスが受け継がれていくことになりました。しかしながら長い年月の人類との攻防のなか、ウイルスはその遺伝子を変化させて、自分自身の増殖ができない形(遺伝的欠損など)となってしまい、今でもその痕跡がヒトの遺伝子に刻み込まれています。このように、現在では感染性を失っていながらも、ヒトの遺伝子に入り込み、親から子へと受け継がれいてるウイルスを内在性レトロウイルス(Human Endogenous Retrovirus, HERV)と呼びます。特にHERV-Wと呼ばれるウイルスは人間の胎盤形成に重要な働きを担っており、逆に人類の存続にも関わる重要な因子となっています。

最も新しいHERVはHERV-Kと呼ばれているウイルスで、約3000万年前に人類に感染したウイルスと考えられています。このウイルスはその遺伝子が比較的に保たれており、一部の細胞ではこれらの遺伝子産物が、発生段階や、ある種の疾患では発現が上がっていることが報告されています。

我々はこのようなHERV-Kがなぜ、その発生段階やある種の疾患で発現が上がっているのか、逆にほとんどの細胞でその発現が制御されているのかについて研究を行っています。このような研究から、これらのウイルスの発生段階における生理的な意義や、病気との関連についても明らかになってくると考えています。

2022年5月14日の医学教育部入試説明会で使用したスライドはこちらを御覧ください。

HIVの感染していないCD4陽性T細胞株 (PM1/CCR5)

HIVが感染したCD4陽性T細胞株 (PM1/CCR5)

HTLV-1 Envによる合胞体形成

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